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簿記と税理士

税理士へステップアップ!日商簿記の知識を最大限に活かす方法

企業や個人事業主の税務をサポートする税理士は多くの人が憧れる職業です。しかし、税理士は幅広い知識と経験が必要な職業であり、特に簿記や財務諸表についての知識が問われます。そこで、この記事では税理士試験の合格を目指す場合、日商簿記がどのように活かせるかを解説します。いきなり税理士試験の合格を目指すのではなく、日商簿記からステップアップしていくことで効率良く税理士試験の合格を目指すことができるでしょう。

1. 税理士には簿記の知識が必須

税理士は税金に関する専門家です。必要資料の収集、正確な税額計算、確定申告書の作成、企業や個人の納税手続など、その業務には税務に関する専門的な知識と経験が必要になります。税理士の業務を遂行する上で、最初に必要になるのが「簿記」の知識です。簿記とは、企業や個人事業主が行っている事業についての取引記録をつけることをいいます。「何にいくら経費を使い」「どこから収益を得たのか」というお金の流れを記録し、納付すべき税額を計算したうえで、財務諸表を作成します。この記録をつける知識と技術のことを簿記というのです。
税理士の業務は簿記の知識が前提となります。その上で、租税法などの関連法令の知識を組み合わせることで税理士として活動することが可能となります。つまり、税理士が覚えるべき内容を理解するためには簿記の知識が必要不可欠ということになります。
そして、難易度で言えば、日商簿記1級に合格するよりも税理士試験に合格する方が難しくなります。したがって、いきなり税理士試験を受けるよりも、日商簿記3級、2級、1級と段階を追ってレベルを上げていくほうが現実的です。税理士試験と日商簿記1級は商業簿記の試験範囲がよく似ています。日商簿記で身に付けた知識は税理士試験にも活用できるので、日商簿記を受けても無駄にはなりません。むしろ、いきなりハードルの高い税理士試験の勉強を始めて挫折するよりも、段階を追って簿記の知識を高めた方が税理士試験の勉強の理解が早く、挫折しにくくもなるでしょう。先ずはご自身が税理士になるための適正があるかどうかを検討するために日商簿記3級の勉強を始めてみましょう。

2. 日商簿記1級の合格なしでも税理士になれる

日商簿記1級の合格なしでも税理士になることは可能です。税理士試験の受験資格はいくつかあり、大学・短大卒で法律学又は経済学を履修した人などになります。受験資格の中に日商簿記1級合格者も含まれますが。受験資格のどれか1つを満たせば、税理士試験を受験することは可能です。したがって、日商簿記1級の合格なしでも税理士になることはできます。しかし、税理士試験の試験範囲には会計業務に必要な「簿記論」と「財務諸表論」があります。さらに、税務に必要な法律科目(法人税法・消費税法・所得税法・相続税法など)のうち3科目を足した計5科目の合格が必要です。

3. 日商簿記と税理士試験の違い

日商簿記の勉強で税理士試験の勉強ができると言っても、難易度には大きな違いがあります。まず、日商簿記では級ごとに出題範囲が明示されていますが、税理士試験では大まかな範囲しか示されていません。例えば、日商簿記3級では連結会計は出題されませんが、2級では出題範囲になります。一方、税理士試験では「簿記論」という大きな括りが示されているだけです。どんな内容がどれぐらい出題されるかは分かりません。
また、日商簿記は過去に出た問題が繰り返し出題されますが、税理士試験は過去問の類題はほぼ出ません。日商簿記であれば過去問を何回も繰り返すことで出題傾向を知ることができます。これは、日商簿記の試験委員がほぼ固定されており、出題傾向が毎年ほとんど変わらないからです。しかし、税理士試験では、3年サイクルで試験委員が変わるため、出題傾向が頻繁に変わります。したがって、簿記に関する総合的な知識を前提に、応用力をどれだけ利かせられるかが重要なポイントになります。
日商簿記と税理士試験では、使用できる筆記具にも違いがあるので注意が必要です。日商簿記では鉛筆書きで解答できるため、誤字や脱字は後から修正することができます。一方、税理士試験の解答は消せない黒又は青のボールペンを使って記述しなければいけないため、大幅な修正は行いにくくなります。

4. 日商簿記2級から税理士へは王道だが無駄が多い

税理士は国家資格です。取得すれば独立開業も可能、企業税務を学べば大いに仕事に活かすこともできます。そこで、日商簿記1級を取得するよりも直接税理士試験の合格を目指すほうが早いと思い、初めから税理士試験の勉強をする傾向があります。この考え方が全て間違いとは言えませんが、税理士試験を目指す多くの人は日商簿記2級に合格した後に、税理士試験を受けようとするのです。この方法は一見最短距離のように見えますが、実際には無駄が多い道のりです。
まず、日商簿記2級で学ぶ工業簿記は、税理士試験では試験範囲外です。一方、日商簿記2級レベルで身についている商業簿記の知識だけでは、商業簿記の出題範囲が広く応用力が試される税理士試験の簿記論に合格するのは至難の業です。ステップを1つ飛ばしていると言っても良いでしょう。そのため、多くの人は1回では合格できず、合格まで何度もチャレンジすることになります。結果的に、日商簿記2級を取得してから税理士試験の合格まで予想以上に時間がかかってしまったというケースが多々みられます。
日商簿記2級を持っている人が、ステップアップを望む場合、日商簿記1級受験のために新しいことを覚えても、税理士試験のための勉強をしても、新しいことを覚える負担感はほぼ同じです。それならば、難易度が少し下がる日商簿記1級合格を目指していく方が現実的かつ合理的な選択と言えるでしょう。

5. 日商簿記1級取得後なら知識を活かせる

税理士試験で出題される会計科目は「簿記論」と「財務諸表論」の2科目です。この2科目は必須科目で必ず受験しなければいけません。この2科目は、工業簿記が出題されないという点以外では日商簿記1級の試験範囲とほぼ同じになります。税理士試験では試験科目11科目中5科目の合格が必要ですが、選択必須科目(法人税法又は所得税法)、選択科目にも簿記の知識をある程度必要とする科目があり、日商簿記1級取得後だと比較的楽に受験できると言われています。
ちなみに、税理士試験は1年に1回しかありません。合格し損ねた科目は翌年まで受けられないのです。一方、日商簿記1級は1年に2回受験することができます。日商簿記1級の勉強をすることにより、税理士試験の会計科目に一発で合格できる自力をつけてから受験する方が、効率が良いことは言うまでもないでしょう。日商簿記1級に合格してから税理士を受けた方が2級から直接税理士試験の合格を狙うよりも短期間で合格できる可能性が高いのです。
また、日商簿記1級や日商簿記2級で勉強する工業簿記の知識は、税理士試験の試験範囲外ですが、公認会計士試験では試験範囲となりますし、製造業を深く理解するためには必要な知識となります。

6. 税理士を目指すなら先ずは日商簿記から

「早く税理士になりたい」そう思う人はたくさんいます。日商簿記2級からではなく、先に日商簿記1級を取得したうえで税理士試験を目指すと、一見回り道のようにも見えます。しかし、実際は、簿記1級取得後に税理士試験を受験した方が、学習効率が良く合格しやすいのです。税理士を目指すなら、まず日商簿記1級の資格を取得し、確実に合格できる力をつけたところでチャレンジする方法が、結局最短の道のりになります。
どうしても直接税理士試験の合格を目指したい場合は、日商簿記2級と1級の出題範囲である一方税理士試験の試験範囲外である工業簿記の勉強を切り捨て、その分商業簿記を広く深く勉強する方法をとった方が効率的です。すなわち、工業簿記が試験範囲外である日商簿記3級合格後、直接税理士試験の合格を目指す大手資格試験予備校の税理士試験「簿記論」講座を受講すべきと言えます。

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