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貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)

金融商品会計基準による貸倒引当金

貸倒引当金とは、商品の販売・サービスの提供などの営業取引から生じた債権の回収不能等による損失に備えてあらかじめ一定額を見積計上する引当金をいいます。
金融商品会計基準上は、債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権の3つに区分して、それぞれの回収可能性に応じた貸倒引当率を設定し、貸倒引当金の金額を計算します。
一般債権は、貸倒れの問題が発生していないため、過去の貸倒実績率などによる合理的な方法で貸倒引当金を計上します。
貸倒懸念債権は、貸倒れ等の重大な問題が発生する可能性が高い債権であるため、個別に回収可能性を検討して貸倒引当金を計上します。
破産更生債権は、実質的に経営破綻した債務者の債権であるため、回収可能額を差し引いた全額を貸倒引当金として計上します。
貸借対照表上は、原則、債権の科目別に貸借対照表価額から貸倒引当金を控除する形式で表示されます。
法人税法上は、損金に算入できる貸倒引当金の繰入限度額が規定されています。

法人税法上の貸倒引当金

貸倒引当金の処理について詳しい人はあまりいないかもしれません。しかし企業を経営していく上で、貸倒引当金を計上することが必要となる可能性は少なからずあります。ここでは、法人税法上の貸倒引当金ついて解説します。計算方法と注意点についても併せて紹介しますので、貸倒引当金についての知識を深めておきましょう。

1. 法人税法上の貸倒引当金の概要

貸倒引当金というのは、取引先に対して自社が有している売掛金や貸付金などの債権が、取引先の倒産などによって回収できなくなった場合に備え、その取立不能の見込み金額をあらかじめ計算して帳簿に計上した金額のことです。法人税法上、貸倒引当金を計上することが認められている企業は決められています。資本金額が1億円以下の中小企業などです。資本金1億円以下の中小企業であったとしても、資本金が5億円以上の企業の完全子会社などは、貸倒引当金は計上できません。
貸倒引当金の対象とすることができる債権も、定められています。事業に関連しており、貸倒れの可能性がある債権が対象です。具体的には、売掛金や貸付金、受取手形などです。一方で、事業に関連したものではなく、また、回収できる見込みが高いものは対象とはなりません。ですから例えば、預貯金や保証金、前渡金などは、貸倒引当金の対象外です。ところで、貸倒引当金には2つの種類があります。一般引当と個別引当です。一般引当は、現在のところ貸倒れが生じているわけではないものの、このくらいの債権額のときには貸倒れがこのくらい生じているという過去のデータを基に、今期に関しても貸倒引当金を計上して備えておくというものです。
個別引当は、特定債権に関して実際に貸倒れが生じる可能性が高いとき、その特定債権の金額を基礎として計算します。簿記の基本は、実際に生じた取引を記録することです。したがって、貸倒れが起こっていないにも関わらず損失を見積もって計上するというのは、例外と言えます。しかし取引をしていると、貸倒れが発生する可能性をゼロにすることはできません。貸倒引当金は、債権を回収できず予備のお金が必要になったときに備え、お金を手元に残しておくための一つの方法となります。
また、貸倒引当金を計上するのには、「費用収益対応の原則」という企業会計のルールを満たす目的もあります。例えば前年度に売掛金が発生していたのに、翌年度になって相手が倒産して売掛金を回収できなくなれば、事業年度をまたいで費用と収益が発生することになり、帳簿の整合性がとれません。前もって貸倒引当金を計上することで、こうした不都合を防ぐことができます。

2. 貸倒引当金は負債扱い

では貸倒引当金は、帳簿上どのように仕訳されるのでしょうか。貸倒引当金の仕訳には、「差額補充法」と「洗替法(あらいがえほう)」の2つがあります。以下でそれぞれの方法について説明していきます。なお、貸倒引当金に繰り入れる金額の具体的な計算方法については、後述します。

Ⅰ. 差額補充法

差額補充法は、決算期末時点で残っていた貸倒引当金の残高と、新たに計算した貸倒引当金の総額との差額を、貸倒引当金に繰り入れる方法です。例えば、初年度に計算した貸倒引当金繰入限度額が50,000円だったとします。このときには以下のように仕訳します。

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 50,000 貸倒引当金 50,000

次の事業年度末に見ると、初年度に計上した貸倒引当金はそのまま残っていました。そして、新たに計算した貸倒引当金は70,000円です。そこで2年目は、次のように仕訳します。

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 20,000 貸倒引当金 20,000

このように、差分だけを計上していくのが差額補充法です。ちなみに、2年目に計算した貸倒引当金の金額が40,000円だったとすると、どのように仕訳をすればよいのでしょうか。以下を見てみましょう。

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 10,000 貸倒引当金戻入 10,000

貸倒引当金戻入という勘定科目を用い、引当金から収益に戻し入れることになります。

Ⅱ. 洗替法

洗替法は、貸倒引当金の総額を決算期ごとに計上していく方法です。差額補充法と同じ例を用いると、1年目は

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 50,000 貸倒引当金 50,000

と仕訳します。ここまでは差額補充法と同じです。しかし2年目には、

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 50,000 貸倒引当金戻入 50,000

 

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 70,000 貸倒引当金 70,000

という仕訳をします。つまり、引当金の残高を一旦全て戻し入れてから、新たに総額を計上し直すという方法です。
この方法で、2年目に計算した貸倒引当金の総額が40,000円だとすると、

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 50,000 貸倒引当金戻入 50,000

 

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 40,000 貸倒引当金 40,000

と仕訳することになります。

Ⅲ.貸倒引当金は負債に仕訳する

仕訳例から分かるように、貸倒引当金は右側の負債項目に仕訳をします。これはなぜなのでしょうか。負債というのは、将来支払う可能性があるもののことです。買掛金などが良い例です。貸倒引当金もその一つとして考えられるため負債項目なのですが、どちらかというと支払う可能性があるというよりは、「受け取れなくなる可能性がある=資産をマイナスにするもの」と捉えた方が、分かりやすいかもしれません。実際に法人の決算書などにおいても、貸倒引当金は資産における売掛金のマイナスとして記されていることが多いです。

3. 貸倒引当金の計算方法

ここからは、貸倒引当金の計算方法を紹介していきます。先述したように、貸倒引当金には一般引当と個別引当があります。

Ⅰ. 一般引当
a. 原則

貸倒引当金の法人税法上の繰入限度額は原則として、「期末一括評価金銭債権の帳簿価額×貸倒実績率」で算出します。繰入限度額は取立不能見込額の上限で、その金額までであれば費用に繰り入れて良いとされます。また、一括評価金銭債権というのは、債権回収ができなくなる可能性が極めて高い「個別評価金銭債権」に該当しないもの、つまり、一般引当で計算すべき債権のことを指します。貸倒実績率は、過去3年間のうち実際に貸し倒れて損失となった金額をもとに計算しますが、小数点以下4位未満を切り上げるというルールがあります。

b. 法定繰入率

資本金が1億円以下の中小企業のうちで、資本金5億円以上の企業の完全子会社ではない法人などに関しては、法定繰入率という方法で繰入限度額を計算することも認められています。法定繰入率による繰入限度額は、「(期末一括評価金銭債権の帳簿価額-実質的に債権とみられない金額)×法定繰入率」です。実質的に債権とみられない金額というのは、ある取引先に対して売掛金を有しているが、同じ相手に買掛金債務を負っている場合の買掛金額などを指します。法定繰入率は業種によって異なります。会社は、原則か法定繰入率による方法か、いずれか自社にとって有利となる方法を選択して計算ができます。

Ⅱ. 個別引当

個別評価金銭債権は、破産手続開始の申立て等がされている場合、その個別評価金銭債権の50%を貸倒引当金として計上します。

4. 貸倒引当金計上の注意点

貸倒引当金の計算方法などについて紹介してきましたが、貸倒引当金を計上する際には注意点もあります。それは、貸倒引当金は、全ての会社が、債権全額を対象として繰り入れできるものではないという点です。最初に述べたように、適用できる会社、対象となる債権には条件がありますので気をつけましょう。
また、貸倒引当金は、実際には発生しないかもしれない費用を計上するもので、経費として収益から控除することが認められています。そのため、節税につながるというメリットがあるのですが、節税効果があるのは1年目のみです。なぜなら、貸倒れが発生せず損失とならなかった分については、翌年度に、貸倒引当金戻入として収益に戻し入れるからです。
貸倒引当金を繰り入れる場合、法人税法上の繰入限度額内であればそのまま損金算入が認められます。しかし法人税法上の限度額を超える分については、金融商品会計基準を満たしている貸倒引当金であっても損金算入が認められないため、法人の所得金額の計算時に加算調整で対応するということも、覚えておくと良いでしょう。

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